ESSAY

いろんなことを体験して、自分を育てて!
    異文化間カウンセリング研究所所長 東京学芸大学非常勤講師 大塚 芳子
(略歴)高校生で1年間米国留学。教師を経て米国の大学院でカウンセリングを学ぶ。現在、カウンセリング及びその指導(教員等対象)に従事。第23回博報賞(国際理解教育)受賞。

●確実に海外体験している帰国生

 もうすでに20年以上も前のことになりますが、私は親の赴任に伴って海外で生活することが目前に迫っている子供たちのグループカウンセリングを行っていました。その時に、帰国した子供を招いてこれから渡航する子供たちからの質問に自由に答えてもらう時間を設けていました。
10年以上もそのグループカウンセリングを続けていましたが、いつも思ったことは帰国した子供たちは確実に海外での体験を自分のものにしているということです。帰国生は海外でさまざまなことを実際に体験し、そしてただ体験しただけでなく、それがどのようなことを意味しているのかを自分の言葉で語ることができるのです。
 今もはっきりと覚えているある帰国生の言葉があります。その時彼女はこれから渡米する子供たちにこう言いました。「あのね、アメリカに行くとね、人のこころのあったかさがわかるよ」何て素敵な言葉でしょう。それとちょっと胸がせつなくなる言葉でもあります。海外ではつらいことや楽しいこと等、いろんな体験をします。彼女はおそらくつらかった時に、アメリカの先生や子供たちに助けられたことがあるのでしょう。そしてそれに感謝していることがわかります。「人のこころってあったかいんだ」という生きていくのにとっても大切なことを、アメリカでの自分の体験から学びとっているのです。

●違いのあることを知っている帰国生
 大学で異文化の講義を受け持って、もう10年以上になります。嬉しいことにクラスの半分以上の学生が帰国生と留学生なのです。ですから、クラスでディスカッションをすると日本にずっといた学生からすると、思いもかけない意見や物のとらえかたが出てきてとても楽しくそして本当の意味での勉強になります。
 帰国生が自分の体験や思うことをそのまま素直に話すことが、ほかの学生にとって自分が体験していないことをじかに本人から聞けることや、さらに自分とはまったく違うところに価値観を持っている学生の思いを聞けることで、実際は教室内で話していることですが世界のミニチュアを体験しているような錯覚にもとらわれます。
 世界中から帰ってきた帰国生と接していると、彼らは「人と人とは違うんだ」ということを本当にわかっていることがわかります。これは、異文化の中で生活したことで、すなわち周囲はマジョリティーである現地の人々そして自分はマイノリティーという状況の中で生活したことで、周囲の人と自分は、外見、行動、感じ方、物のとらえかた、考え方等が違うということを実体験し、人はそれぞれ違うということを学んでいくのだと思います。そしてお互いに違いがあるのだから、わかろうとしてコミュニケーションを取ろうとしたり、まだ相手を尊重する気持ちも出てくるのだと思います。
 どうも「人と人は違うんだ」ということは、ずっと日本にいると知識としてはわかるようですが、なかなか本当にはわかりにくいようです。

●いろんな体験をして自分を育てて
 いま海外にいるみなさんにはいろんなことを機会あるごとに積極的に体験して、そしてさらにいろんな人とつき合って欲しいと思っています。
 最近日本の若い人から、うまくいきそうもないことは初めからしないということをよく聞きます。こういう声を聞く度に何だかもったいないなと思ってしまいます。
 うまくいかないと勝手に思っていたことが案外すんなりといくこともあります。また、もちろんその逆もあるでしょう。でも、うまくいかなかったと思ったときにはやりなおせばいいのです。ただ、それだけです。ですから、何もしないであきらめないで欲しいと思います。
 本から学ぶことも大事ですが、いろんなことを体験して欲しいと思います。これまでしたこともないことに挑戦する、いつもつき合っている人だけでなく日頃つき合ったこともない人とつき合ってみる。そうすることで案外知らない自分と出会うことがあるかもしれません。
 ぜひ、いろんなことを体験して、感じて、考えて、自分を成長させて欲しいと思います。


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