ESSAY

"You Are Happy, I Am Happy. So Everyone's Happy."の空しさ
代々木ゼミナール帰国受験科英語講師 大島 昇


一般的に「異文化適応力」が帰国生の強みだと言われます。今回はその「適応力」についてお話ししたいと思います。

帰国生の「強み」?
 帰国生は海外に行ったときに「異文化適応経験」をしているので、「異文化適応力」があるとよく言われています。帰国生枠を設けている学校がその理由の一つとしてこの「適応力」を挙げることが多いようです。また、帰国生が入試の面接や小論文で自らの特徴として「適応力」を挙げることがよくあります。
 はたして、本当に「異文化適応力」が帰国生に備わっているのでしょうか。帰国生が自ら口にする「適応力」なるものは、どのようなものなのでしょうか。
 アメリカに滞在していた帰国生が多いので、ここではアメリカを例に話を進めたいと思います。

アメリカ人の異文化適応力
 アメリカは異文化間交流や異文化適応の研究が最も盛んな国です。しかし、アメリカ人に実は異文化適応力がないからこそ、こうした研究が盛んだとも考えられます。
 話が変わりますが、世界中に駐留している米軍の最大の悩みは、軍人達が現地に溶け込めないことだそうです。そのため、各種の施策が取られているそうですが、その効果は今一つだということです。これは沖縄からの報道でもある程度納得できることです。
 では、なぜあの多民族国家の住人であるアメリカ人に適応力があまりないのでしょう。

「明るいアメリカ人」の現実
 アメリカ人は「明るい」とよく言いますが、それは表面的なことで、その内実は必ずしもそんなに明るいものではありません。本当に「能天気」な人もたくさんいますが、そんなに多い訳ではありません。日本人より多いと言える程度で、決して圧倒的多数が心底明るい訳ではありません。大抵の人はその明るさを装っているだけなのです。
 なぜアメリカ人はそんなことをするのでしょう。それはアメリカが多民族国家だからです。アメリカは様々な人種や文化が解け合っている坩堝(るつぼ)ではなく、様々な人種や文化が共存しているパッチワークのような国家なのです。
 文化的背景が全く異なる人達がうまく一緒に生活して行くにはそれなりのノウハウがあるのです。そのキーワードの一つが「フレンドリー(friendly)」なのです。考え方や行動様式が全く違う訳ですから、心の奥底まで理解し合うことはできないと初めからあきらめているのです。その代わりに、表面的でフレンドリーな人間関係を保つことで、衝突を避けながら共存しようとしているのです。つまり、お互いに溶け込んではいないのです。こうした人間関係を一言で表したのが、You're Happy, I'm Happy. So Everyone's Happy.なのです。
 ところが、お互いに深く関わり合わないのですから、一人一人の心の中は実はかなり孤独なのです。対外的には積極的で明るい人を演じていて、それでいて、自分の弱さや孤独感を見せないようにしている訳ですから、そのギャップにストレスを感じない訳がありません。そのストレスによって心が病んでいる人がアメリカには大勢います。昔は教会で懺悔(ざんげ)をするという方法もありましたが、現在では精神分析医や心理カウンセラーのお世話になる訳です。
 この明るく装いつつ、表面的な付き合いだけで「併存」しているアメリカの状況は次のように表せるでしょう。He Looks Happy, She Looks Happy, But No One's Really Happy. Because They're All Alone.
 これがあの「明るく、楽しい」アメリカ人の現実であり、アメリカ人が異文化に溶け込むのが実はあまり得意ではない、つまり、適応力があまりないことの背景なのです。

帰国生の『適応力』
 問題はアメリカにいた帰国生の多くが、こうした現状に気づいていないことです。多くの場合、それはそれに気づくほど長くアメリカに滞在していないからだと思われます。また、日本人との付き合いが多かったために、個人的な深い付き合いをしたアメリカ人の数が少ないか、ほとんどいなかったからでしょう。表面的な付き合いしかしていないのに、アメリカを知り尽くした気になっている帰国生が多いことはとても残念なことです。
 さらに大きな問題なのは、多くの帰国生、特にアメリカからの帰国生が以前にも申しましたYou're Happy, I'm Happy. So Everyone's Happy.という適応力があまりないアメリカ人が編み出した「併存」するためのノウハウを「異文化適応力」だと思っていることです。
 仮に「異文化適応力」が自分の文化とは異なる文化の中に素早く溶け込めることを意味するのであれば、世間が期待をし、帰国生自身が自負している「適応力」を、多くの帰国生は身につけていないと言わざるを得ません。とても残念なことですが、これが多くの帰国生の現実でしょう。



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