ESSAY

海外体験は帰国生のメリット
外務省大臣官房人事課子女教育相談副室長  齊藤 源三郎
[プロフィール]
1988年東京都立国際高校開設準備より国際部所属。1993年より海外子女教育振興財団教育相談員。2003年より現職。


●比較できる年齢
 グローバル化時代と言われる現在、世界各地の映像はいつでも見ることができます。私たちは世界中の赤ちゃんの映像を並べて各々の特徴、差異等を比較することは容易ですが、映されている本人達は、他の赤ちゃんとの差異を比較する能力はまだありません。日本人であっても金髪の子に混じれば自分も同じ金髪、黒人に混じれば同じ黒人と思いこんでいるそうです。何才ぐらいになったら差異を識別するようになるのでしょう。幼稚園に通う年齢になれば一応は比較していますね。でも、目に見えない文化面の比較、例えば言語については識別できず、海外から帰国して日本の幼稚園に入園した子どもが英語で他の園児に話しかけている場面を見ることがあります。成長期の子どもが海外生活を経験しても、内容によっては文化の差異を認識できず、海外体験として生かすに至らないこともあるのです。



●言語の習得は文化の一部
 帰国生の外国語習得をメリットとして数えるのが普通ですが、低年齢での海外体験では日本語を含む日本文化習得の不足というデメリットを伴うことが多いのです。幼少期に長期間海外で過ごした子どもの場合、ひらがなや漢字の一部を読み書きできても、個々の語い(彙)の意味を知らない場合が多いのです。わかい(若い)、つめたい(冷たい)と読めても、young、coolという意味と理解できず、日本語の語彙として使えないのです。高学年になるほど意味を知らない語彙が増えて日本語の本は理解できなくなり、学習にも支障をきたします。バイリンガルとして育つためには、いつ頃から、どんなやり方で第二の言語を習得したらよいでしょうか。
 言語には、主として生活環境の中で自然に覚える生活言語、学校などの教育機関で文字や文法なども含めて習得させる学習言語に大別できます。前者は耳から入ってくる音声で習得するので、生活環境によって大きく左右されます。異なる文化環境に入ったら生活言語も切り替わるのが自然です。文字と共に習得する学習言語は母語として一生使い続けることが可能な言語ですが、初歩的な段階から同じ比重で二言語を習得することはかなり難しいことです。日本の学校教育では、小学校の最初から日本語の習得を主にして、英語は第二言語として中学校からスタートさせていました。近年、児童英語の導入が可能になりましたが、話し言葉である生活言語の習得に比重を置いています。渡航時までに、あるいは海外滞在中も母語としての日本語の習得を継続し、年齢相応の学習言語を身につけていれば、帰国後、日本の学校教育への適応も容易です。しかも第二言語としての英語を、音声で学んだ生活言語だけでなく、文字と共に身につけた学習言語も年齢相応の段階まで達していれば、バイリンガルとしての活躍が期待できます。



●大学で生かせる海外体験
 帰国生の海外体験のメリットは第二言語の習得だけではありません。文化の差異を認識できる年齢であれば、具体的な生活様式から精神文化の各面に至るまで、日本文化と他地域の文化とを比較して、より客観的に把握することも可能です。高学年になるほど、より広範囲に、綿密に他の国、他の民族との比較で自国認識を深めることができます。自分が直接体験してきた外国の教育、学校生活等についてはとくに強い関心を持っていますが、帰国当初は日本の教育や学校について批判的になり、周囲から孤立してしまうこともあります。学習方法や考え方は帰国生の方が正論であっても国内の中・高校ではなかなか採り上げてもらえません。しかし、大学に進学して、学生の自主性がより尊重されるゼミ形式の授業、サークル活動等の中では帰国生の体験、広い視野が十分生かせます。途中で挫けないで、海外体験で得た特性を持ち続けていれば、外国語習得の特性と併せて実り多い学生生活を実現できるでしょう。




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