ESSAY

焦らず、身近なところから自分らしさを発見しよう
          キヤノン株式会社勤務
小川 望
父親の海外勤務のためアメリカに7年滞在。代ゼミ帰国生コースを経て、慶応義塾大学法学部政治学科に入学。現在、キヤノン株式会社に勤務し、海外業務を担当。

 日本に帰国して早10年。寝る間も惜しんで楽しんだ大学生活もあっという間に過ぎ、気が付けば社会人として働く自分がいます。このあっという間の10年間に、大学入学・就職・結婚など、人生において極めて重要な決断をしてきました。今、ここで改めて自分の人生を振り返ってみると、それぞれの決断の支えとなっているのは、小中高を通して経験してきたさまざまな苦労や喜びを通して築き上げた価値観です。私の場合は、父の仕事の関係で小学6年生から高校卒業までアメリカで過ごす機会があったため、異文化へ溶け込んでいくという比較的刺激の多い環境で自分の価値観を磨いてきたのだと思います。
●日常生活を通じ感性を磨く
 帰国してから気付いたのですが、帰国子女というと海外に住んでいたから自己主張が強く、外国語ができるから、あるいは異文化経験があるからユニーク・国際感覚があるというイメージを持っている人が意外と多くいます。しかし、日本でずっと育ってきた人のなかにもユニークで自己主張が強い人はたくさんいます。また、帰国子女でもおとなしい人や意見の少ない人もいます。ただ単に海外に住んでいたから国際感覚が身に付くわけでもなく、異文化に接したからといって特別な経験になるということではないと思います。
 将来的に役立つ経験とは、自分の置かれた環境の中でどれだけ心に残る感動や発見をするかにかかっていると思います。日常生活の中でいろいろなことにチャレンジし、物事の本質を見抜く力を磨くことで、自分の中に明確な価値観や自信を作り上げることができるのだと思います。そしてその価値観こそが、自分特有の「ものさし」となり、大学受験だけではなく社会へ出てからも必ず役立ちます。
●少し先を意識して積み重ねる
 大学生の頃はそれほど意識していませんでしたが、社会に出ると、自分の意思だけで物事を動かすことは予想以上に困難です。例えば会社に入れば、企業には利益を出すという主目的があり、その達成へ向けてさまざまな人が組織の一員として働いています。そして、各構成員が自らの専門性を高めながら、経験や知識を活かしてより良い結果・成果を目指して仕事に取り組んでいます。それぞれの人が個々の目的を持って働いているので、利害や考え方が一致しないことも多々あります。しかし、会社が組織としてその本質的な力を発揮するためには、皆が共通の目標へ向かって一丸となって動く必要があります。組織が健全に機能するためには、個人の利害にとらわれず全体としての利益を意識した考え方や目標設定が重要です。
 こういった環境の中で求められるパーソナリティとは、誠実・円滑なコミュニケーションを通して強いチームワークを築くことができることと、その組織をとりまとめて動かすことができる信頼を、周囲から得ていることだと思います。例えば、周囲の出来事に自ら積極的に関わることで、組織全体に協力的な雰囲気を作り出すことや、組織としての目標を皆で共有できるように、わかりやすい言葉で筋道を立てて正確に方向性を示すなど、チームワークを強めるために貢献できることは、小さなことでも身近にたくさんあります。こういった簡単なことでも、ただ単に周囲の流れに任せて動いているだけでは決して実践できないと思います。また、一夜漬けで勉強したからといって身に付くものでもないと思います。身近なことに当事者としての自覚を持って積極的に取り組んでいくことで自然と自分のパーソナリティとして形成されていくのだと思います。今、改めてアメリカでの生活を振り返ってみると、いざというときのアメリカ人のチームワークとリーダーシップの強さは、幼い頃からコミュニケーションを重視した教育を受けているからなのだと感じさせられます。

●最後に
 みなさんは目の前の受験を控え、さまざまな不安を抱えていることだと思います。私も10年前の今頃は、日本での新生活、受験勉強、大学生活等不安なことでいっぱいでした。しかし目の前のことにとらわれすぎず、長期的な視野をもって自分の感性を磨くことに力を注いでください。帰国子女受験は普通の受験とは少し異なった形で行われるので、そこでどれだけ自分の魅力を引き出せるかが勝負だと思います。自分の魅力を最大限に引き出し、表現するためには、日々の生活に敏感なアンテナを張って様々なことにチャレンジし、新たな発見、成功、失敗を繰り返し自分の「ものさし」を伸ばすことが一番の近道だと思います。焦らず頑張ってください。




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