ESSAY

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海外・帰国子女教育サポート  OUTREACH代表 金井悦子
7年間の米国在住後、92年より海外・帰国子女の教育支援を行う。
民間企業を経て、2002年、非営利の自主活動グループOUTREACHを設立し、現在に至る。

● 30年ぶりのキャンパス
 私は数年前から、英語で学校教育を受ける生徒の言語習得について研究してみたいと思うようになりました。海外子女が身につける英語力の差は、そのまま、現地生活の充実度や帰国後の進学、さらに就職にまで大きな影響を及ぼすという事例を、長年にわたる海外・帰国子女の教育相談で沢山見ていたからです。
 進行し続けるグローバル化、IT化の波は、英語の必要性を高め、帰国子女に対する期待も大きくなる傾向にあります。実際、高校段階で海外生活を送る生徒の大多数が、英語による学校教育を受けています。一般的に帰国子女といえば即、日・英のバイリンガルと思われがちですが、十分な教科学習ができる英語を身につけるのは、予想外に難しく、思うように学習が進まない生徒も沢山出現しているのが現実です。
 個人のできる研究は本当に小さな範囲でも、目的を持って調査・研究を行なうことで、少しでも効果的な教育支援ができるのではないだろうか、という思いは、日毎に強くなりました。そして2年前、思い切って社会人を対象の大学院に入り、修士論文と格闘を始めたのです。家族や友人は、「その歳で、そこまでしなくたって・・・」と半ば呆れ顔でした。確かに、老化し始めた頭で、仕事や家事もこなしながら研究を進めるのは本当に大変でした。しかし、仕事に直結する研究ができることで、若い時とは違った充実感を得ることができました。




●研究を通してわかったこと
 研究のテーマは、英語力とその習得に関わる要因との相関関係を調べることで、今回は主にアメリカの現地校に在籍経験のある生徒さんや保護者の皆様を対象に、(1)現地(2)児童生徒(3)家庭の3つの視点からアンケート調査を行いました。英語力と要因の間に数値的な相関性を確認できたのは、(1)滞在年数(2)校外での英語接触量(3)日本語の読解力(4)自主性(5)家庭の教育支援の5点でした。これらの結果から、今海外で勉強する高校生の皆さんにアドバイスできるのは次のようなことです。
 第1に、あせらず、侮らず、諦めずに努力することです。言語の運用能力には個人差が大きいのですが、BICS(日常生活を営むのに必要な言語能力)とCALP(学習をする為に必要な言語運用能力)を併せ持った高度な英語力を育成するには、長い年月(今回の調査では4年以上)が必要であることがわかったからです。第2に校内ばかりでなく、校外での英語接触量をできるだけ多くしましょう。地域活動への積極的な参加は、ネイティブスピーカーと双方向のコミュニケーションを促進し、ことばの背景にある文化や価値観を理解できる点で言語習得によい影響を及ぼすと思われます。第3に、できるだけ早く英語の教科学習ができる様になるために、日本語による学習を大切にしましょう。特に学習英語力の強化には、膨大な時間をかけて英語の文献を読むより、むしろ読解力のある日本語であらかじめ学習教科の内容や、背景事情などを読んでおくことが非常に有効です。スキーマと呼ばれる先行知識が蓄積されていれば、多少分からないことばがあっても、すでに自分の中にある知識に結び付けて内容を把握することが容易になるからです。第4に、身の回りで起きる様々なことをCriticalな視点で見る癖をつけましょう。様々な疑問が湧き上がってきたときこそ、知的好奇心を満足させる勉強ができ、それは楽しいものとなるからです。学習効果を高めるには、自分の中から湧き出るモチベーションが最も有効です。
 最後に保護者の皆さんへのお願いです。実際に英語で勉強を教えることは難しいのですが、学習環境の整備、学校でのボランティア、先生とのコミュニケーションなど教育支援の方法は沢山あります。子どもたちや現地の地域社会、学校教育に対する関心と暖かな励ましは、彼らに安心感を与え困難を乗り越える大きな力となります。これは数値的な相関以外にもアンケートの記述部分から確認することができました。海外での教育は、国内のそれとは比べ物にならないほど家庭の関与度が高いので苦労も多いと思います。しかし、やりがいはそれ以上に大きいのでどうか暖かな気持ちでお子様を見守って下さい。そして何より現地での生活を心から楽しんで下さい。そうすれば自ずと結果はついてきます。
 私もまた、海外で学ぶ子ども達が、人種やことばの違いを超えて、国際社会の中で自分自身を発揮できる人になってくれることを願って、アドバイスを心がけたいと思っています。





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