ESSAY

選択と決断の先に夢がある
〜少しずつ、しかし確実に前進し続けること〜
          
独立行政法人 国際交流基金
宮崎 彩
          
高校卒業まで計13 年半を米国とメキシコで過ごし2003 年に帰国。代ゼミ帰国コースを経て、東京大学教養学部、同大学院修士課程修了。現在、同大学院博士課程学生と社会人の二足の草わらじ鞋を履きながら、文化財保全の可能性を模索中。
   

●開眼させてくれた海外生活
 私の人生はメキシコに引っ越した7歳の時に大きく変わりました。メキシコ人の心の拠り所の一つに1500 年以上も前に建造されたテオティワカン遺跡があります。今も政府が中心となって保護をしている巨大な太陽のピラミッドを目の前にし、「死者の道」に立った瞬間、私は過去の文明の偉大さと芸術的な建造物の美しさに衝撃と感銘を受けました。また、当時通っていた学校の近所には草木に覆われ小高い丘と化したピラミッドがありました。このように埋もれたままで放置されている遺跡と国を挙げて守られるものとの差異について考えるようになり、それ以来、長期的かつ持続的に文化財を保全する仕事をしたいと思い続けています。私の場合、日本の大学に進学したことで、すごくゆっくりではありますが、確実にその夢が現実に近づきつつあります。悩み続けて現在に至りますが、その判断に間違いはなかったと心から言えます。


●「人生の方向性を選択する」という試練に向き合う帰国受験
   10 歳から高校を卒業するまでアメリカで過ごした私は、「日本人」というアイデンティティを見失いつつありました。突如帰国することが決まったことも相まって、私は日本の大学に進学することを決断しました。
 帰国受験は、将来の生き方を真剣に考え、自身と向き合う良い機会となります。それまでの人生を再び見直し、自分の長所・短所を考え抜き、これからどういうキャリアを積みたいのか、その為にはどの大学のどの学部に進学し、どんな先生に師事したいのかを考えるチャンスです。これは非常に難しいことですが、若いうちにこのプロセスを経ることは人生設計の近道となるでしょう。
 さて、私は文化財保全の夢を実現するため、考古学科のある文学部、国際的な制度作りについて学べる国際関係論、また文化財という資源を資金面で保全するための仕組みを考えられる経済学の3つにフォーカスをあてました。帰国生入試の特徴は、なぜその大学、学部に行きたいのかを、いかに試験官を説得できるかにかかっていると言えましょう。したがって自分で納得できなければ、大学側を説得することも難しいのが、一般入試と大きく違うところです。私はそういう意味で、強いパッションを持って受験に臨めたことがプラスになったと感じています。


●今の私を築いた大学での素敵な出会い、そして今 
 私が進学した東京大学は、最初の2年間が教養課程なので、専修分野は2年生の冬学期まで決まっていません。そこで、1年目は興味のある授業をたくさん取り、どの学科に進学すべきか模索することにしました。大学で受けた講義には、年輪を数えて木の年代測定をするゼミや、ラテンアメリカ文学に関する講義、開発経済学の授業や能・狂言について観世流の家元に基本的な謡(うたい)を教えていただくものなど多様なものがありました。その中で考古学と国際関係の2つに絞り、各先生方にアドバイスを仰いだ結果、途上国の文化財保全をテーマとして扱うために教養学部国際関係論への進学を決め、現在の博士課程への研究にいたっています。大学では友人や教授を通して、進路や人生設計に影響を与えてくださった多くの方々と巡り合うことができ、そのつど様々な方のアドバイスを受けながら道を切り拓くことができました。
 私の人生の転機は修士1年目でインターンを行ったパリのユネスコ本部オフィスでの2か月でしょう。国際機関でできることの可能性と限界を学びながら、世界を体感しました。また修士修了後は外資系経営戦略コンサルタントとしてプロジェクトマネジメントについて学び、同時に博士課程へ進学することを決意しました。2012年に文化財保全の手法を学ぶため英国の考古学科の大学院に留学しながら、ヨークミンスターというゴシック建築の大聖堂修復に保全家の見習いとしても携わりました。英国大学院卒業後はローマにある文化財保全の国際機関と日本の国立の文化財保全研究所で働く機会を得ました。現在はより広く文化を捉え直し、文化外交の可能性を模索するため、国際交流基金で働いていますが、文化財保全の道に進むことを諦めていません。
 まだdream job についていませんが、少しずつ夢に近づいていることは確かで、そのもどかしさにヤキモキしながらもワクワクしている日々です。5年後、10 年後、自分がどのように生きているのか見当もつかない今の生活は少し落ち着きませんが、充実したものであることは確かです。私の選択を応援してきてくださった方々に恩返しをするためにも、皆様の力で切り拓くことのできたこの人生をより満足のできるものにしていかなければなりません。帰国生として海外で生活してきたころから常に挑戦し続けてきたこのライフスタイルは今後も変わらないと思います。世界と戦う基盤を作ってくれた海外生活と、その機会を与えてくれた両親、そしてサポートしてくださる多くの方々の期待にこたえられるように、これからも奮闘し続けます。
 大学入学・卒業から新たに始まる人生というマラソンをいかに充実したものにするか、真剣に悩みながら受験に取り組んでください。頑張り続ける分、満足のできる素敵な生き方と巡り合えます。


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