ESSAY

帰国生と向き合って
          
代々木ゼミナール国際教育センター 国語・小論文講師
内田 智子
          
代々木ゼミナール国際教育センターにて、帰国生の受験指導に長年携わる。小論文の個別指導も担当。私立高校の講師もしつつ、野球・写真・音楽・美術・旅に興味津々の日々。
   


●思いがけない帰国生との出会い
 帰国生の受験のサポートを始めて、かれこれ25年ほどになります。随分月日が経ったことに、自分でも驚いています。
 まだ、日本の学校に「帰国子女」がいることが少なかった時代のことです。代々木ゼミナールで講師をされていた私の恩師が声を掛けて下さって、帰国小論文の講義を受け持つことになりました。1日目の授業のことは今でも覚えています。ドアを開けると、きらきら光る眼が一斉にこちらを見ていました。質問を投げかけると、我も我もと手を挙げて発言する様子に圧倒されました。「日本の学校」とは違った雰囲気がとても気に入りました。
 私は、帰国生の「個別指導」も担当しています。毎年6月末になると、海外の高校を卒業して帰国した生徒たちのガイダンスが行われます。小論文の勉強法を中心に45分ほどのお話をするために登壇し会場を見渡すと、少々不安そうな目や挑むような力強い目がこちらを見ています。企業の海外進出に伴う海外滞在者は、北アメリカやヨーロッパが多かった時代から、現在は東南アジアや中国などエリアは世界に広がっています。留学目的の生徒は、カナダやアメリカ、オーストラリアやニュージーランドだけでなく、最近では韓国や中国も増えています。滞在期間も2年ほどから18年と幅があります。それぞれの事情を背負って、緊張した面持ちでこれからの受験生活を送ろうとしている生徒たちを見ながら、ひとりひとりのためのアドバイスをしようと心に言い聞かせます。


●様々な背景を持つ帰国生たち
 帰国生の指導は、まさに「カスタムメード」です。例えば滞在国で生まれ、その国で教育を受けた生徒が来た場合、日本語に苦労するというケースが多々あります。英語力は問題ないのですが、日本語が全く書けないケースもあります。これらの生徒を何とかしなければなりません。授業外で漢字の練習からはじめ、小論文を書けるまでサポートします。ある生徒は日本語力に問題を抱えていたため、受験直前期まで時間内に小論文が書けませんでした。でも、他の生徒と同じプロセスをこなしていてはいつまでたっても追いつきません。「受験日に自分の文章が書ける」ことをゴールにすることで、無事その生徒は希望の国立大学に合格しました。生徒の頑張りを称えたいです。
 また、学業以外の問題で受験勉強に身が入らないというケースもあります。国立難関校を目指していたある生徒は、家庭の事情を抱え、受験どころではないという状況が続きました。友達にも相談できず、度々私の所に来て胸の内を明かしました。学業に専念できないもどかしさ、家族に頼られることの重さは、どのようであったか。毎週毎週、ひたすらその生徒の話を聞き続けました。最後は生徒自身が自分の受験を優先する決意をして、無事に合格しました。生徒のプライバシーに配慮しつつ、生徒が自分で大事な決断をするまで、焦らず急かさず傍らで聞き役になることも、受験指導の大切な部分です。


●寂しさに耐えて育まれるもの
 これから受験を控えているお子様をお持ちのお父様お母様。遠く離れた外国で、お仕事をなさりながら大事なお子様を育てていらっしゃるご苦労と愛の大きさはいかばかりでしょう。また、単身で海外留学をするお子様のお父様お母様。最愛のお子様を送り出された勇気に胸を打たれます。毎日毎日心配でたまらないと思う気持ちで過ごされておられるのではないでしょうか。ですが、お子さんと今離れ離れになっているご家族の方は、ぜひ「遠く」からお子さんを応援してあげてください。日本に帰国して、親戚の家にお世話になっている生徒や、寮で暮らしている生徒は、辛くなるとご両親のことを思い出して寂しい思いをすることがあります。それでも、あえてその「寂しさ」に耐えることで、「自立心」「独立心」が増し、自分自身への「信頼」や「自信」が強くなっていくのです。こうした「信頼」「自信」は、必ずや試験本番の筆記試験や面接の力になります。私立大受験生は4ヶ月、国立大受験生は8ヶ月の受験勉強のなかで、生徒たちはしなやかな強さと揺るぎない自分への信頼を身につけ、一回りも二回りも大きくなって大学の門を叩くのです。
 まもなく、2017年の生徒が帰国します。真新しいバインダーとペンを用意し、帰国生とお話をする時間を今から楽しみにしています。



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