ESSAY

越境する君たちを迎える
− Beyond Borders −
          
立命館大学 国際関係学部 教授・学部長
君島 東彦さん
          
きみじま あきひこ。1 9 8 6 - 8 8 年、1 9 9 4 - 9 5 年、2007-08年、2012-13年の計4回、累計5年間、シカゴ大学およびワシントンDCのアメリカン大学で、大学院生、客員教授、客員研究員として過ごした。専門は憲法学・平和学。
   


●越境=留学の3つのタイプ
 海外の高校で学んで、帰国して日本の大学に進学するってどういうことだろう。留学ってなんだろう。
 それは「越境」するということだ。
 人類の歴史は越境の歴史であり、越境による進歩の歴史だ。
 人間は昔から越境=留学してきた。日本から東シナ海を渡って中国へ行った遣隋使、遣唐使、最澄、空海は留学の典型である。わたしは留学=越境には3つのタイプがあると思う。
 1つ目は「巡礼」。これは先進国へ行って、最先端の学問や制度を学び、輸入するというタイプである。最澄、空海はこの古典的事例であり、明治時代の作家・軍医、森鴎外 のドイツ留学、あるいは大日本帝国憲法を起草した伊藤博文のウィーン留学もこれだ。
 2つ目は「放浪」。これはいわば「自分探しの旅」である。中世ヨーロッパにも放浪学生が多かったという。作家・永井荷風は20 代に、米国とフランスに滞在したが、これは放浪だろう。
 3つ目は「結果としての越境」。自分の学びたい学校、大学を探しているうちに、結果として越境することがある。たとえば、いま神経科学(脳科学)の最先端を学ぼうとすると米国の大学になるだろうし、食科学を学ぼうとするとイタリアの食科学大学になるかもしれない。


●越境することで見えるもの
 いずれにせよ、留学の本質は越境だ。海外の高校で学び、帰国して日本の大学に進学しようとする帰国生も越境している。ジャン=ジャック・ルソー(1712-1778)の『エミール』(1762)は教育論の古典だが、ルソーは教育の総仕上げは留学=越境だと言っている。越境することによって人間と社会がよく見えるのである。越境する帰国生には、越境していない他の人々よりも人間と社会がよく見えているはずだ。
 越境することによって、我々は自分自身をそれまでとは異なった環境に投げ込むことになる。そうすることで、我々は自分自身、日本、アジア、世界を再発見するだろう。越境は、我々を、無知と偏見、臆病と因習から解き放ち、自由にするのである。
 カルチャー・ショックという言葉がある。異文化に出会ったときに受ける衝撃のことだ。とりわけ日本から外国に留学するときに問題にされる。わたし自身の経験からいえば、カルチャー・ショックを受けるのは留学=越境の醍醐味であって、カルチャー・ショックを味わうのは楽しかった。むしろ逆カルチャー・ショックの方が問題だろう。外国の文化、環境の中で暮らしてきた人が日本に帰国したときに、日本社会への適応に困難を感じることがある。帰国生はまさにこの問題に直面するだろう。しかし、帰国生は越境者としてのかけがえのない経験、優位性を持っているのだから、適応の困難を乗り越えてほしい。


●立命館大学国際関係学部の挑戦
 わたしが勤務している立命館大学国際関係学部は、西日本初の本格的な国際系学部として1988 年に創設され、今年2018 年4 月、創設30 周年を迎える。東京大学教養学部国際関係論コースが国際関係学の東日本における拠点であるが、我々は国際関係学の西日本における最大の拠点である。でも、国際関係学って何?
 国際関係学とは、国際社会をさまざまな切り口――政治学、法学、経済学、社会学、歴史学、ジェンダー論、メディア論等々――でトータルにとらえようとする学問のことだ。我々の学部は日本でもっとも包括的、総合的な国際関係学部である。さらに我々は、日本語で国際関係学を学ぶ専攻(国際関係学専攻)と、英語で国際関係学を学ぶ専攻(グローバル・スタディーズ専攻。日本語能力を必要としない)の2つの専攻を用意している。
 我々は1988 年の学部創設以来、つねに日本の大学教育の最先端を追求してきたが、創設30 周年の今年、さらなる挑戦を始める。それは、アメリカン大学・立命館大学国際連携学科(American University-Ritsumeikan University Joint Degree Program in Global International Relations)のスタートである。これは京都の立命館大学国際関係学部で2年間、ワシントンDC のアメリカン大学国際関係学部で2年間学んで、学士(グローバル国際関係学)という共同学位を取得するプログラムである。日米の大学で初の挑戦となる。詳細は我々のウェブサイトをご覧いただきたいが、簡単にいうと、米国の大学の強みと日本の大学の強みを組み合わせたハイブリッドのプログラムである。「越境する国際関係学部」ともいえる。
 立命館大学はいま、Creating a Future Beyond Borders(超えていけ!)という理念をかかげている。我々国際関係学部も、越境する君たちを迎えるのを楽しみにしている。



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