ESSAY

日本も捨てたもんじゃない
帰国受験科小論文ブーメラン指導講師 内田智子


●帰国生はお気の毒?
 

 景気の後退、失業率の上昇、デパート・銀行の倒産
 総理の相次ぐ失言、内閣支持率の低下
 青少年による凶悪犯罪、外国人窃盗団による強盗
 両親による幼児虐待
 三宅島島民の長期にわたる避難生活……

 日本ではここ数年明るいニュースがほとんどありません。新聞を開いてみても御覧の通 りです。(わずかに昨年のシドニーオリンピックで、田村亮子選手・高橋尚子選手らが金メダルを取ったのが例外でしょうか。)
 というわけで、このような日本に帰って来る皆さんはお気の毒です。実際に「失望した」という人もいます。

●「日本のことをもっと知りたい」
 しかし帰国生とゆっくり話してみると色々なことが分かります。スペインから帰国したY君は「スペインに比べたら、日本の失業率なんて問題になりません」と言います。かの国の失業率は25%近いそうです。又、人生のほとんどをフランスで過ごしてきたKさんは「フランスの大学の授業も、おしゃべりが多くてひどい状態です」と教えてくれました。外国の大学に知人のいない私にとって、このことは初耳でした。なあんだ、どこの国でも同じような問題を抱えているんだな、と納得した次第です。
 世の中の暗い話題にばかり接しているとつい日本の悪い点ばかり捜してしまいますが、どっこいそうとばかりも言えませんぜ、と声をかけたくなります。これまた人生の大半をアメリカで過ごしてきたSさんは「私は和菓子が大好き。和食が好き。日本のことをもっと知りたくて帰って来ました」と言います。こういう人が増えて大変嬉しいです。外国文化の中で生活した人が、日本文化の特色について理解を深め、世界に向けて発信してくれたらどんなによいだろう、と期待がふくらみます。

●茶の湯が教えてくれるもの
 ところで「日本文化を知る」為にはどうしたらよいのでしょう。受験生にとっての勉強は、もちろん教科書や参考書の活字を通じて、という形が中心になるでしょう。しかし、日本文化の真の奥深さに触れるには、書物を通しての知的な理解だけでは不十分で、どうしてもある程度の年月をかけた"修業"のようなものが必要だと思います。
 私はここ数年、茶の湯という伝統文化に興味を持って、稽古場に通ったり、茶道具を収めた全国の美術館に足を運んだり、あるいは古い茶室を見に京都を旅したりしてきました。以前は「茶道」は女の子に行儀作法を教えるための場、あるいはちょっと"高級な"年配女性の娯楽、という程度の認識でした。ところが、自分で積極的に勉強を始めてみると、茶の湯は思いもかけなかった面 をいろいろ見せてくれました。
 何より、「女性的なもの」と思っていた茶の湯は、数百年にわたって、「男の世界」だったのです。戦国の武将たちが、あるいは国の命運を担った明治の財界人たちが、茶室という狭い空間のなかにひとときの慰安を求め、一服の茶を喫してきました。そうした年月の積み重ねが、茶の湯のなかには息づいています。
 また、純粋な日本文化の産物と思っていた茶の湯は意外にも、"国際的"なものでした。中国、朝鮮の道具や掛け軸が重んじられているのはもとより、ときには東南アジアやヨーロッパの文物までが巧みに取り入れられ、茶事という重厚なセレモニーを彩り豊かなものにしているのです。日本は閉鎖的な島国という先入観は捨てなければいけません。
 今のみなさんには難しいかもしれませんが、晴れて大学生となった暁には、何か日本の伝統的な芸能、武道などに腰を据えて取り組んでみてはいかがでしょうか。



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